プロイセン 嘗て自分が守り生き抜く為に共に戦った国の名前。 オーストリア 嘗て自分と敵対し、自分たちを利用した国の名前。 忘れはしない。 忘れれば自分の生きてきた存在価値を忘れる事になる。 忘れれば自分の国の心が嘘になる。 忘れれば、自分のこの心が嘘になる。 だからこそ、自分たちは忘れる事はないのだ。 人間のように、記憶の上塗りをする事はない。 全てを覚え、長い生を生きる。 『フリッツー!!!』 戦場に轟いた自分の声。 自分を囲んでいた何人かを蹴散らし一目散に王の下へと駆ける。 振り下ろされる刃をスローモーションで見送りながら馬から滑り下りる。 音を立ててぶつかり合う剣。 散った火花は剣からではなく交わった視線から。 『何をするローデリヒ!!』 『何だはないでしょうお馬鹿さん。ここは戦場です。そして貴方が庇うのは私の敵です』 『ならば俺を倒してからにしろ。王にこれ以上傷は付けさせねぇぞ!!』 『お相手致しましょう。所詮国同士の戦いに他の人間は無用です』 利用し、ぼろ雑巾のように捨てられた。 見下し利用し、最後まで駒として扱った。 ローデリヒ・エーデルシュタインは国の意思に従っていたとしても。 ギルベルト・バイルシュミットという者がいるという事は、いずれ国に成るであろう事を知っていながら。 ここで引く事は許されなかった。 『ローデリヒ!!てめぇは何で俺様を認めない!!』 『貴方は私にとって邪魔なのです』 『それはこっちに台詞だっ!!』 闇の中で、目が覚めた。 戦いの中で身に付いた夜目は未だ健在で、ここが戦場ではなく自分の寝室である事を知らせる。 懐かしい記憶だった。 流れてくる汗を手の甲で拭い、静かに寝台を降りた。 音もなく部屋を出て行く先は取り澄ました居候の部屋。 またも音もなく滑り込むと、迷わず寝台へと足を向けた。 そこにいるのはすやすやと寝息を立てる、嘗ての敵。 曝け出された白い首筋にゆっくりと手をかける。 理性はやめろと暴れる。 今は戦場ではない。 プロイセンという国はドイツという国に成った。 争う事ももう何十年としていない。 それでもそれが本能のようにその首に手を沿わせ、徐々に力が込められていく。 「プ、ロイ、セン…何を」 苦しくなって目が覚めたのだろう。 ローデリヒがその紫の目を開き、此方を見ていた。 「…っあ、…」 その瞳に我に返ったギルベルトが急いで手を離す。 引いた手を何処にも戻せず、宙に彷徨う。 ローデリヒは眉を少し潜め、よいしょと寝台の端に身を移した。 そして布団の端を捲る。 「お眠りなさい。特別に半分貸して差し上げます」 「いい。悪いな。起こしちまって」 下手な笑みを浮かべ、ギルベルトは戻ろうとした。 ローデリヒはため息を一つ吐くと、強引にギルベルトの腕を引っ張った。 急に掛かった引力に抗えず、ギルベルトは寝台に転がった。 「何すんだ!!」 「私は貴方の言葉に耳を貸す道理を持ち合わせていないもので。私が貸すと言っているのですから借りなさい」 強引に布団を掛け、自分も横になり寝る体制に入る。 「訳わかんね」 「いいからお眠りなさいプロイセン。ギルベルト・バイルシュミット」 そっと瞼に乗せられた掌にギルベルトは抗うことなく、瞼を閉じた。 それから乗せられた手に自分の手を乗せ、小さく、小さく呟いた。 「……ごめん」 ローデリヒはそれを聞かなかった振りをして自分も瞼を閉じた。 翌朝 「兄さんはともかく、なんでオーストリアまで起きてないんだ?」 とにかく起こしに行こうとオーストリアの部屋まで来たヴェストは、ノックの返事がないので勝手に入る事にした。 幸いかどうかはともかく、部屋に鍵は掛かっていなかった。 「オーストリア?もう起きたらどう、だ?」 寝台の近くまで言ったヴェストはそれ以上声を掛けるのを止め、早急に、そしていつも以上に音を立てないように部屋を出た。 (何で兄さんとオーストリアが一緒に寝ているんだ!?どういうことだ!?) ぐるぐる回る疑問に答えてくれる人間はおらず、そのまましばらくの間ヴェストは二人に対して挙動不振だった。 サブタイトル:弟の憂鬱(笑) ***** 歌ってみたで滾り過ぎて出来た産物。 普を弱らせてみた第二段。 墺さんがどんどん男前になっていく…